【岩崎宏美さんインタビュー】筒美京平が作り上げた最強のサウンドと、野口五郎との新しい挑戦

1975年にデビューしてから、46年間にわたって第一線を走り続けている歌手・岩崎宏美さん。2020年10月7日には、多くのヒット曲を手がけた作曲家・筒美京平さんが逝去されましたが、筒美さんは岩崎宏美さんに、代表曲となった「ロマンス」「シンデレラ・ハネムーン」をはじめとした74曲を提供しています。そんな筒美京平さんへの追悼企画として、岩崎宏美さんによる選曲・監修のもと、10月20日に作品集「筒美京平シングルズ&フェイバリッツ」が発売されました。

また、11月24日には野口五郎さんとのデュエットソング「好きだなんて言えなかった」が発売。精力的に活動する岩崎宏美さんにとって、筒美京平さんはどんな存在だったのでしょうか?野口五郎さんとのコラボレーションの経緯とは?

今回は当サイト「あなたの知らない昭和ポップスの世界」にて、岩崎宏美さんにインタビューをさせていただく機会に恵まれました。当サイトは、平成生まれに昭和ポップスの魅力を伝えていくWebサイトを目指していることもあり、なんと「後追い世代」のファンからの質問に対してもお答えいただいています。

岩崎宏美さんのデビューと筒美京平さん

ーー本日はインタビューをお受けいただき、ありがとうございます。筒美京平さんがお亡くなりになってちょうど一年が経ちますが、なかでも岩崎さんには70曲以上の楽曲を提供されていたんですね。

そうなんです。野口五郎さん、郷ひろみさん、太田裕美さん、南沙織さんに続いて、筒美さんから提供された楽曲が多いようですね。

デビューする前からその存在は知っていて、「ノリがいい曲だな」「この歌好きだな」と思う楽曲を見てみると、みんな筒美京平という名前があったんですよ。私はもともと南沙織さんのファンで、そこで「あぁ、素敵だな」と思う曲も筒美京平。小林麻美さんの曲とかも、おとなしい曲だしあまり声を出して歌うような曲じゃないのだけれど、すごくおしゃれだった。そしてそれを誰が作っているのか見ると、やっぱり全て筒美京平って書いてあるんです。

阿久悠先生は「スター誕生!」に出ていてどんな方か知っていたし、和田アキ子さんの「あの鐘を鳴らすのはあなた」とかも大好きだったから、「君のデビュー曲は阿久悠と筒美京平だよ」と言われたときは、なんて運が強いんだと思いましたね(笑)

ーーそして実際にデビューされて、最初の曲は「二重唱(デュエット)」でしたね。そのあと大ヒット曲となる「ロマンス」も発売されます。

当時は3ヶ月ごとのスパンでレコードを出すから、デビュー曲の「二重唱」が発売されて1か月半後くらいにはもう次の曲「ロマンス」のレコーディングが入っていたはずです。目まぐるしかったですね。

「二重唱」のレコーディングの思い出でいうと、「♪〜口づけするのなら」という歌詞が当時の私にはすごく恥ずかしくて、歌えなかったの。だからごまかして歌っていたら、その当時のディレクターの笹井一臣さんという方から「お前なぁ、ごまかす方がよっぽど恥ずかしいんだよ」って言われたんです!

ーーそれは……10代の女の子に容赦ないですね!

それからは、どうせ考えたってわかんないことばかり歌っているんだから、歌の内容は考えず、頭に出てくるテロップをそのまま歌っているという感覚で歌うようにしたんです。
だから私の歌って、色っぽくもなければ、思い入れがあるのか?というくらいさっぱりしているの。それは、実はその笹井さんのせいなんですよ(笑)

でも、それが良かったみたいですね。「ロマンス」のB面は「私たち」という曲なんですが、レコーディングが終わったときにどっちをA面にするか、みんなで多数決で決めたんです。筒美先生は、「16歳の女の子が息がかかるほどそばにいて欲しい」という歌詞は色っぽすぎるから、「私たち」がいいとおっしゃっていたのですが、阿久先生は「でも岩崎くんが歌うと色っぽい歌詞も爽やかに聞こえるから」と言って「ロマンス」を選んだんです。結局「ロマンス」がリリースされて、出した途端に売れはじめたから、私もびっくりしました。

ーー岩崎さんはどちらを?

私は当時、朝の生放送の番組で歌を歌うことがあったから、楽な方をということで「ロマンス」を選びました(笑)
結局、一票差で「ロマンス」に決まったんですよね。

ーー岩崎さんの一票で!

そうなんです。当時通ってた堀越学園の最寄りの中野駅を出た目の前にパチンコ屋さんがあったんですけれど、そこからしょっちゅう「ロマンス」が聞こえてくるんです(笑)それは恥ずかしかったけど、ヒットしていることを実感しましたね。

ーーいろんな因果が重なって「ロマンス」に決定して、大ヒットにつながったのですね。

そうですね。今コンサートでは「私たち」もフルコーラスで歌っていますけれどね(笑)

ーー今回の「筒美京平シングルズ&フェイバリッツ」のDISC1には筒美京平さんが提供したシングルA面全18曲が、DISC2にはシングルA面以外から、「私たち」などを始めとする岩崎宏美さん自身がセレクトした19曲が収録されています。DISC2の選曲理由が気になるのですが、こちらはどういう基準で選ばれたのでしょうか?

思い出のある曲だったり、歌ったときに心地よかった曲だったりとかで選んだのですが、好きな曲が多すぎて、19曲に絞るのはとても難しかったですね。

【収録曲はこちらから】
岩崎 宏美 | 筒美京平シングルズ&フェイバリッツ(初回限定盤) | ビクターエンタテインメント

ーー選曲にあたって聴き直してみて、あらためて気づいたことはありましたか?

当時は新曲をいただくたびに、「またこんなかっこいい曲をもらっちゃった!」って、とにかく毎回感動していたんです。今回改めて聴いてみて、その思いが蘇ってきましたね。アルバム「Wish」にしても「パンドラの小箱」にしても、筒美先生がすごく楽しんで私に曲を書いてくれてたんだなぁって感じます。

あとは自分のアルバムはなかなか聞くチャンスはないので、今回改めて聴いてみて、「なんて一生懸命歌ってるんだろう!」って自分で感心しちゃいました。もし私が歌い手をやっていなくて、あんなに一生懸命歌っている子がいたら、きっと自分も応援しながら聴いていたんだろうなって思います。だってサウンドがかっこいいもの!

ーーご自分でそうおっしゃっているということが何より、筒美さんによる岩崎さんの楽曲のクオリティの高さを表していますよね。今回のアルバムは、ジャケット写真も本当に素敵です。

ビクターの倉庫に眠っていた写真を蔵出ししてきたんです。今回のために撮ったんじゃないかと思えるような写真ですよね。この写真は、アルバム「Wish」をロサンゼルスのスタジオでレコーディングした時の写真なんです。その中で「Wishes」という曲を歌ったときに、「賛美歌を聴いているみたいで少し固いから、みんなワインでも飲んで、もう一度レコーディングしませんか」と作詞家の橋本淳先生から提案されて、みんなで飲んでレコーディングしたんです。よく見ると、手前にワインが写っているでしょう(笑)
私も筒美先生も顔が赤いですね。

ーー本当ですね!エピソードも含めて、とても貴重な写真ですね。

野口五郎さんとのシングル

ーー筒美京平さんの楽曲を大事にされている一方で野口五郎さんとのデュエットソング「好きだなんて言えなかった」が11月に発売され、それに伴って東京・大阪・名古屋でコンサートを行うなど、新しいことにも挑戦し続けていらっしゃいますね。

実は、ここのところずっと自分の歌に悩んでいた時期があったんです。私が10代の時に歌っていた歌っていうのは裏声が出せなかったから全部地声でぶつけて、もう出たとこ勝負って感じで歌っていたんですけれど(笑)
やはりだんだんそういうわけにも行かなくなってきてしまい、ディレクターにも相談して「厳しいと思ったら、潔くキーを下げましょう」ということになりました。

そしてそんな去年暮れごろ、野口五郎さんと仕事でご一緒する機会があったんです。そのときにちょっと話したら、野口五郎さんは未だに原曲キーで全部歌っていることがわかって。五郎さんは「え、宏美ちゃんもそうじゃないの?」なんて言うわけですよ(笑)「いや私は……」という話をしたら、何を根拠にかわからないけれど彼が「多分、(声は)戻ってくるよ」と言うんです。

それで五郎さんに言われたアドバイスを実践していたら、コンサートの翌日の午前中なんて今までは体が起きるまで怖くて声が出せなかったのが、朝からちゃんと声が出るようになったんです。本当に私、最近元気になってきたんです。救世主ですよ、野口五郎さんは。

ーー具体的にはどのようなアドバイスだったのでしょうか?

「普段喋っている声のトーンを高くする」ということです。歌い終わった後に低い声で喋っていたら、「宏美ちゃん、そんな声で喋っていたら戻るよ!歌い終わったら特に高い声で喋らなきゃ」って。

そんなことは言われたことがないので驚いたけれど、いざ実践してみたらどんどん調子が良くなってきたんです。「二重唱」のB面の「月見草」は、コンサートでは実は3つ音を下げて歌っていたんですが、最近になって2つ上げたんです。最近のコンサートに来て下さったファンの方々は、「あ、音が変わったな」って気づいてくださっていると思いますね。
だから最近、五郎さんからアドバイス料を請求されるんですよ(笑)

ーー仲が良いんですね!それまでも、野口五郎さんとご連絡は取っていたんですか?

電話番号は知っていたけれど、頻繁に連絡を取ることはありませんでした。
きっかけは去年の暮れの音楽番組でご一緒したときですね。その番組で歌う曲について、たまたま私と五郎さんが直接話し合って決めることになったんです。

そしたら、とにかく話がスムーズに進むんですね。「お客さんの前で歌ったことのある洋楽の歌って何がある?」っていう話の中で「カーペンターズかなぁ」なんていうと、「あぁカーペンターズ、いいね」みたいな感じで。音楽の話が本当にポンポンと進んでいったの。それが、一緒にシングルをリリースするきっかけになりましたね。

ーー11月・12月にはお二人でコンサートも開催されますね。とても楽しみです!

平成生まれから岩崎さんへの質問コーナー

昨今、若い世代の「後追いファン」もどんどん増えています。岩崎さんのコンサートにも、最近若者が増えてきたのだとか。取材をさせていただいた筆者の周りにも平成生まれファンが多くいることから、彼らから寄せられた質問にも答えていただきました。

Q:歌手の方はボイストレーナーによって声帯に良い飲み物が違ったりしますが、岩崎さんにとって相性の良い飲み物は何ですか?

A:最近は、軟質のお水。あとは歌っている途中や歌った後は、スポーツ選手がアイシングするような感じで、結構ガンガンにのどを冷やす飲み物を飲んでいます。
ほかにはスロートコートっていうのどに良いハーブティーがあって、それを飲んでいたこともありますね。あとはプロポリスとかマヌカハニーをなめて寝ることもあります。
とにかく、日々のどのことを考えた生活をしていますね。

Q:岩崎宏美さんの楽曲には阿久悠さんと筒美京平さんが手がけられた作品が多いですが、お二人は普段どんな関係性だったのでしょうか?

A:「夜のヒットスタジオ」(フジテレビ系列)の生放送が終わった23時からよくレコーディングしていて、本当にいつも夜遅かったんですが、阿久悠さんも筒美京平さんもそれに毎回来てくれていました。
曲が先なのか、歌詞が先なのかわからないけれど、出来上がった曲はいつも本当に心地いい曲ばかりでしたから、きっと大人の関係だったんじゃないかなと思います。
あとは、ふたりともおしゃれでしたね。

Q:1986年にエジプトで開いたコンサートで親善大使に選ばれていらっしゃいますが、その経緯はどのようなものだったのでしょうか?

A:それは外務省の仕事だったんです。ピラミッドやスフィンクスのあるギザにステージを組んで、そこでコンサートをしました。世界の女性で初。もちろん日本人でも初でした。
それは日本の文化を向こうの方たちに知ってもらうための企画でして、ホテルの1階が江戸村みたいになっていたし、着物のモデルさんもいっぱいいて、バレーボールの選手も行って試合をしたりして。日本の大企業の役員の方々もたくさん行っていました。
エジプトに行くチャンスはなかなかないから、お金では得られないたくさんのことを経験しましたね。

Q:岩崎さんの楽曲のタイトルがかっこよくて好きです。「万華鏡」「熱帯魚」「未完の肖像」など、漢字も多いけれど重くない爽やかさのあるワードチョイスでとても素敵だなと思うのですが、岩崎さんが一番好きな楽曲タイトルってありますか?

A:それは……「好きだなんて言えなかった」かな(笑)

ーーそれは間違いないですね!この度はインタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

ありがとうございました!


あとがき

今回は、FMヨコハマでのラジオのお仕事で岩崎宏美さんとご一緒させていただいた際に、幸運にもお話を伺う機会に恵まれ、当サイトで記事として公開することができました。緊張で汗びっしょりの筆者を前に岩崎さんはとにかく気さくで、お仕事の合間だったにもかかわらずとても丁寧に応じてくださいました。心から感謝のひとことです。
岩崎宏美様、ご協力いただいたマネージャーのK様・レコード会社のご担当者T様、FMヨコハマのN様、貴重な機会を本当にありがとうございました。
今後のリリース・コンサート情報にも大注目です!

(取材・構成:さにー)

リリース・コンサート情報

「筒美京平シングルズ&フェイバリッツ」

作曲家 筒美京平 追悼企画
岩崎宏美が監修・選曲した作品集「筒美京平シングルズ&フェイバリッツ」
発売:10月20日(水)

購入はこちらから:岩崎 宏美 | 筒美京平シングルズ&フェイバリッツ(初回限定盤) | ビクターエンタテインメント

野口五郎・岩崎宏美「好きだなんて言えなかった」

「好きだなんて言えなかった」/野口五郎・岩崎宏美
作詞:松井五郎 作曲:森正明 編曲:中川幸太郎
発売:11月24日(水)

野口五郎・岩崎宏美 2021 プレミアムコンサート 〜Eternal Voices〜

名古屋、大阪、東京、公演 決定!
各種プレイガイドにてチケット発売中

  • 11月23日(火・祝) 愛知県 芸術劇場 大ホール (名古屋)
  • 12月2日(木) オリックス劇場 (大阪)
  • 12月6日(月) Bunkamura オーチャードホール (東京)

岩崎宏美コンサートツアー 〜太陽が笑ってる〜

デビュー45周年を迎えた岩崎宏美によるスペシャルコンサート!
これまでの45年を振り返りつつ、新たな魅力をバンドサウンドにのせてたっぷりとお届けいたします。

  • 10月30日(土)岡山
  • 11月3日(水・祝)神奈川
  • 11月7日(日)山梨(完売)
  • 1月22日(土)群馬

各種プレイガイドにてチケット発売中!

サウンドメーカー服部克久の世界

国内のクラシック界とポップスの架け橋として作曲活動し、2020年6月に83歳で亡くなった服部克久のメモリアルコンサート。服部克久と親交が深かったアーティストたちが東京の新国立劇場・中劇場に集結します。

開催日程:11月16日(火)・11月17日(水)
(岩崎宏美は17日に出演)

購入はこちら:チケットぴあ

アレンジャーズ・サミット「音楽の料理人たち」~今蘇る、名アレンジャーのスコアたち

服部克久、前田憲男、宮川泰、小野崎孝輔、森岡賢一郎、羽田健太郎、各氏が編曲したスコアから、選りすぐりの名曲を演奏します。

日時:2021年11月29日(月)18時開演(予定)
会場:東京文化会館
オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団+リズム隊
主催:一般社団法人 日本作編曲家協会(JCAA)

各種プレイガイドにてチケット発売中!

※各種公演情報の詳細については、岩崎宏美さんの公式HPをご確認ください。

岩崎宏美 Information

岩崎宏美 公式サイト:https://www.hiroring.com/
岩崎宏美 公式YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCAyDqVzzsGZ586aHDCQ7nQg
岩崎宏美 Instagram:https://www.instagram.com/hiromiiwasaki_official/
岩崎宏美 facebook:https://www.facebook.com/fansitehiromi

この記事をシェアする

最近の記事

人気の記事