【なぜボギー?】沢田研二『カサブランカ・ダンディ』の歌詞の意味

曲の情報
沢田研二『カサブランカ・ダンディ』
作詞:阿久悠
作曲・編曲:大野克夫
リリース:1979年2月1日
オリコン売上:39.0万枚
1979年・年間ランキング:26位
「沢田研二ってどんな人?」っていう方は人物データベース・沢田研二へどうぞ! 人物データベースで気になる人のプロフィールを見ることができます。

こんにちは。平成生まれの昭和好き、さにーと申します。

斜めにかぶったハット、耳には花を差し、ウイスキーの瓶を片手に、それを口に運び天に噴き出す姿。こんなキザでスカした演出がサマになるアーティストは、昨今とおして一体どれだけいるでしょうか。

リリースされてから40年の時を経て、私もその姿に魅せられた一人です。初めて沢田研二さんがこの曲を歌う映像を見たときの衝撃・・・あれを一生忘れることはできないでしょう。(できることなら、もう一度ジュリーを知らない頃に戻って、あの衝撃をもう一度味わいたい)

『カサブランカ・ダンディ』は、そんなジュリーの曲の中で、私の大好きな一曲です。
暴力的にも感じる歌詞のインパクトやパフォーマンスにつられて、よく歌詞の意味を考えたことがなかったという方もいると思いますので、あらためてここで考えていきたいと思います。

 

「カサブランカ・ダンディ」の歌詞の意味を考察

『カサブランカ・ダンディ』歌詞全文はこちら(別タブが開きます)

カサブランカ・ダンディの歌詞(1番)

まず、歌の入りが強烈。「女の頬をはりたおして」なんて今の時代に歌ったら、世間様からなんと言われるか。でも、世間から見ても沢田研二自身がこの歌詞がサマになる存在だったのかもしれません。たしかに、ジュリーにだったらひっぱたかれてもいい。むしろひっぱたいてくれ。

『パントマイムを演じていたよ』のパントマイムとは、「身ぶりや表情で表現する無言劇で、まるでないものがあるかのように見えるように見せる芸」のこと。2人にとって幸せな頃を思い出すあのフレーズが流れて来ても、ことばも交わさず、まるで聞こえていないかのようにやり過ごそうとしている様子です。

ビンタする様子などから男はもう女に興味がないような様子の一方で、幸せだった頃を思い出すことが辛い、めいたこと言ってるこの男。険悪な仲になっちゃったってことでしょうか。人のこと殴っといてどーいうこと?(おこ)

歌詞の「ボギー」って誰?

そして、サビであるこのフレーズを聴いて「ボギーって誰だろう?」と思った方もいるでしょう。ボギーというのは、1940〜1950年代を象徴する名優、ハンフリー・ボガートのニックネーム。曲名の由来にもなっている『カサブランカ』という映画の主演を務めました。「君の瞳に乾杯」というフレーズが、この映画によって有名になっています。ハンフリー・ボガートは映画の中で数々の名言を残しているのですが、そのどれもが非常にキザ!今の時代からすれば「クッサ〜」とも言われそうなレベル。歯が浮くセリフってやつです。

しかし当時はそれが「クサい」とは言われることはなく、人々の心を熱中させた時代でした。キザなことを言ってもカッコよくいられた時代、ということです。

主人公の男は、まず女との関係がうまくいっていない。今でいうDVもしちゃってる。でも、女め!ざまあねえな!と思ってるわけではなく、むしろなんか傷ついている気がします。そして、『ボギーの時代なら良かったなあ』とすこし自嘲気味になっているように感じます。ボギーの時代の、いったいなにに憧れているというのか。

2番に続きます。

カサブランカ・ダンディの歌詞(2番)

まずね。。これ知らない方はYouTubeでも見て欲しいんですが、「背中のジッパーつまんでおろす」の部分で、ジュリーがスタンドマイクに指をなぞらせ、ジッパーを上から下にすべらせるジェスチャーをするのですよ。このしぐさ!!そしてこのな、艶かしい歌詞よ!!初めて聴いた時は思わずドキリとしてしまいました。

しかし、本当に注目したいのは歌詞の真意。

男と女は、もう修復不可能な関係

その次の歌詞で、1番の『苦しい顔できかないふりして』に続き、『辛い芝居を続けていたよ』と出てきます。

だって、「もう身体を重ねることしかすることはない」って言ってんですよ。それなのに辛いとか、もうそれ、男と女は破綻しているってことじゃないのか。
もう、話し合いを重ねたって、あの頃は良かったなあと懐古したところで、どうにもならない。だけど離れられないってことなんじゃないのか。。

そして、そんな恋人芝居だって本当は、したくなかった。でも離れられないから、破綻していることは承知の上でそうしつづけるしかない。マジかよ。悲しいけど、そういうことなんじゃないかと思います。

ようは……男のもっともおそれている「別れ」から目をそらし続けるには、もう、そんなことくらいしかできないのです。他の方法が男にはわからないし、女が何を訴えてこようと(『しゃべり過ぎる女の口を』)、もうこの不器用すぎる男にはどうしようもできないのです。

だから『さめたキスでふさぎながら』という歌詞も、「男がもう女に冷めている」という意味ではなく、破綻しかけている関係を修復することもできない中ではそうするしかなかったんじゃないかな。

お互いの愛を確かめるのがキスだとすれば、この二人は今にも消えそうな細い糸をたぐりよせることでかろうじて繋がっているだけの関係を続けるための「キスするしか方法がわからなかった」のキス。お互いに求めあっていても交わらない、一方通行どうしの愛を守るためのもの。それがさめたキスなんではないかと。。
もう何も言うんじゃねえというか、頼むからやめてくれってのに近い感情なんではないでしょうか。

男は、女をまだ愛してるけど、幸せになるための愛し方がわからない。今やっていることも恋人芝居でありパントマイムだとわかっていて、続けることしかできないのです。
だから、彼が本当に恐れていることが起こるのを遠ざけるかのように、あるいは来るとわかっている上で先のばしにするために、いまは聴かないふり、見ないふりをする

もうさ、あほだよね。苦しいわ。。どこで歯車が狂ってしまったんでしょうか。取り返しがつかなくなる前に、何かできなかったんでしょうか。もうね。。

やっぱりこの不器用な男にはそれしかできないのですね。

そして、ここで出てくるのがボギー

ボギーの時代は「やせがまん」をすること自体もサマになる、男がキザでいられた時代。ひとつの恋が終わってしまっても、意地を張って女の前では涙も見せずに別れていくような姿とか、ボギーならサマになったんじゃないかな。

男もそんな粋でありたいと思う一方、そうはなれない自分がいる。

せめてボギーの時代だったら、俺のこのしんどい芝居も絵になったのかなあ。今じゃただただかっこ悪いだけの男だ。サビの歌詞は、そういう意味だと思っています。

それに本当は「時代のせいではない」と男は気づいてたんじゃないでしょうか。男は純粋に、ボギーのようにカッコつけながらもまっすぐに人を愛せる人になりたかったのかもしれません

もしそうなら、こんなやり方じゃない方法で女を愛していけたかもしれないのに、と。

作詞・作曲・歌手から総合的に考えてみた「カサブランカ・ダンディ」の意味とは

沢田研二『カサブランカ・ダンディ』は歌詞とジュリーがひとつになった、阿久悠の傑作。


ここまで歌詞をメインに見てきましたが、歌は歌詞だけで完成するものでは決してありません……!

作詞・作曲がやっぱりものすごい

この曲のすごいところは他にもたくさんあって書ききれないのですが…やはり阿久悠さんの歌詞は、一曲とおして完全なる作品という感じがします。歌は3分間のドラマとは、よくいったものです。私をその歌の世界へといざなってくれる、そんな歌詞をいつも書いてくれますね。。

そしてそこに大野克夫さんによるメロディーとアレンジが加わります。

ちなみにこの曲には「ピアノのメロディー」という歌詞が出てくるように、気持ちいいところでちょくちょくピアノのフレーズが入ってくるんです。編曲家としても天才すぎますね。
そしてなにより、この曲の世界観をまとめ上げているのがすごい。この記事を書くにあたっていろんな方の解釈を調べましたが、みんないろんな考察をしていました。「昔は良かった」という阿久悠さんによる懐古がテーマだとか。

いろんな見かたができるぶん想像しがいのある歌詞だとは思うのですが、それをいかにしてひとつの音楽に落とし込んで世界観を表現するかってものすごい大変だろうなと。当たり前ですがこの作曲なしでは出来上がらなかった楽曲だと思います。。

そして沢田研二が歌って初めて完成する

そして問題はこれを歌っているのが沢田研二さんだということなんです。

私はこの曲、これまで書いてきたように、不器用で繊細な男の話だと思ってます。それって、もう笑っちゃうくらい悲しい話でしょ。

でも、この笑っちゃうぐらい情けなくて、カッコ悪くて、どうしようもない不器用な男を演じているのが誰って、あの沢田研二なんですよ。
古今東西これ以上ないくらいカッコいい人、「美しい」の原液を煮詰めて二晩寝かせて凝縮したようなこの人に、この歌詞を歌わせるってヤバすぎませんか。阿久悠さんなのかプロデューサーなのかわかんないけど、もう世紀の大天才としかいいようがない。

情けない歌詞も、カッコいい音楽も、結局歌ってみたら沢田研二に合っちゃうどころか、この人にしか歌えないんだもの。

もう、みんなプロだなって思いますね。

そりゃ、みんなテレビに釘付けにもなりますわ。そういう歌手を「カッコいい」と言わずして、ほかに何といったらよいというのですか。そんなジュリーを「スーパースター」と呼ばずして、いったい誰がスーパースターだというのでしょうか。

「ジュリー、あなたの時代はよかった」。発売から40年、この曲が出た時代を知らない私にとっては、結局なによりもそう思います。

沢田研二さんのレコード売上ランキングやおすすめのアルバムなどが人物データベース・沢田研二から確認できます。

※歌詞引用:カサブランカ・ダンディ 沢田研二 歌詞情報 – うたまっぷ 歌詞無料検索より

カサブランカ・ダンディ
歌: 沢田研二
作詞: 阿久悠
作曲:大野克夫
編曲:大野克夫
発売日:1979年2月1日

この記事をシェアする

最近の記事

人気の記事