【1986オメガトライブ】カルロストシキの「君は1000%」大逆転劇
「君は1000%〜♪」というキャッチーなフレーズで今でも多くの人に知られる、1986オメガトライブ『君は1000%』。
ドラマの主題歌としても起用され、大ヒットを記録した曲です。しかし、この曲が発売された状況は、決してやさしいものではありませんでした。
「君は1000%」が生まれるまでの背景
彼らは、1985年まで「杉山清貴&オメガトライブ」として活動していました。デビュー曲は「SUMMER SUSPITION」で、最高売上をあげたのは「ふたりの夏物語」。夏といえばオメガトライブと言われるほど、夏の代名詞的グループです。
とりわけ素晴らしいのが、ボーカルの杉山清貴の甘くて色っぽくてクリアな歌声。そして、夏を感じさせる爽やかな曲調。もう、なんたっておしゃれ。当時、意中の子と海へのドライブするなら、BGMは杉山清貴&オメガトライブで決まりだったことでしょう。
夏といえばサザンオールスターズやTUBEもありますが、少なくとも80年代時点ではどちらもわりと暑苦しい夏(失礼)のイメージ。爽やかな夏といえば、この中じゃオメガトライブ一択だったんじゃないでしょうか。
人気絶頂時の解散
しかしそんな中、杉山清貴&オメガトライブは解散。しかも「ふたりの夏物語」が大ヒットした、その年に。人気絶頂期の中の解散は、ファンにとっては青天の霹靂だったでしょう。
※「ボーカル脱退」ではなく正しくは「解散」だったようです。訂正致しました。教えて頂いた方、ありがとうございましたm(__)m
新ボーカルに選ばれたのはブラジル人
そんな状況の中で、オメガトライブは新ボーカルを迎え、再デビューしたのです。「ボーカルが変わる」というだけでも、今まで聴いていた人にとっては抵抗感があるはず。ましてや元のボーカルが唯一無二の声を持つ杉山清貴であり、その杉山清貴あってのオメガトライブだったわけです。たとえ新しいボーカルがどんな人でも、受け入れられるのは難しい状況だったことでしょう。
そんな中新ボーカルに選ばれたのは、なんと日系ブラジル人のカルロス・トシキでした。
その人選は、当時の人の目にははたしてどう映ったんでしょうか。。「カルロストシキ…?何者!?」って感じもあったでしょう。奇策だとか、インパクト狙いだとも思われたかもしれません。
いずれイメチェンして新生オメガトライブになるのと思われてたんじゃないでしょうか。というか、それが妥当です。だって一度解散からの再デビューだし、ボーカルは謎の人だし、なにより杉山清貴の(実質)後任なんて荷が重すぎるし。シロートからすれば、またあらたに違うグループとしてイメチェンしてデビューしたほうが安全策なんじゃない…?と思ってしまいます。
しかし、その予想は見事に裏切られます。
カルロストシキを迎えた一発目の曲は「夏といえばオメガトライブ」という杉山清貴時代のイメージを引き継いだ曲で勝負に出たのです。
それが「君は1000%」でした。
「君は1000%」はどんな歌か
「夏だ〜〜!!」と叫びたくなるイントロ
まずはなんと言っても、「うおおお夏が来た〜〜!!!」と思わず叫びたくなるような、ドキドキするイントロ。海についた~~!!!かもね。とにかく、トンネルを抜けたらそこは夏でした。そんなあふれ出す爽快感がこのイントロにはあります。
編曲の新川博さんは、天才ですね。200回生まれ変わってもこんなイントロ作れる気がしませんね。
カルロスの歌声と発音の良さ
そして、カルロストシキさんの歌声。
触れられそうなほど透き通った高い声。杉山清貴の声が澄み渡った深いブルーの空だとするならば、カルロスのそれはまるで繊細なガラス細工のような透明感。
「声が透けてる」とでも言ったらいいんでしょうか。上手いとか上手くないとかもう、そんなんではなく、とにかく唯一無二。私の聴いたことのない声でした。
いつ聴いても一瞬で、暑いけどカラッとした8月の海辺に連れて行かれます。
また声質のほか、カルロスは発音の良さも魅力です。英語部分がありますが、発音が良すぎて思わず真似したくなる英語のフレーズ(最近では、芸人のレイザーラモンRGさんがネタに使ったりしています)。
1000パーセント、というキャッチーな単語とその発音のよさ。一回聴いたら忘れられないフレーズです。
「ちょっと奥手な男の子」がカルロストシキにドンピシャ。
この歌詞では、「意中の女性にうまくアプローチできない奥手な男の子の、夏の恋」が情景として描かれています。
しかし、「奥手な男の子」は描きようによってはただただ情けない男に見えてしまう。まだまだ「男は男らしく」だったであろう30年以上前の時代であれば、なおさらです。
「君がいない時間にかけた電話」のくだりなんか、まさに奥手さが表れてます。当時は留守電もなければ着信履歴も残らないため、相手がその場にいなかった場合、あとで直接言わなければ電話をかけたことはわかりません。
でもこの歌詞の主人公は、言わないんじゃない、言えない。弱気だし内気です。よく夏の歌にこんなシチュエーションを入れようと思ったな!と思うくらい女々しいフレーズです。
しかしカルロスが歌うと、なぜか、純粋でウブな男性のせつない恋として心臓をギュウと掴まれる感覚に陥ります。これは、本当に不思議。カルロスマジックですね。
歌詞だけでもメロディーだけでも完成しない、ひとつの音楽になってはじめてその情景や感情が鮮やかに浮かんでくるような楽曲が、この時代には多いですね。歌手と音楽との化学反応が、計算し尽くされています。
そして大サビ!この部分はただただヤバイです。ゾッコンの女性にやられっぱなし、ドギマギしっぱなしの男性(もといカルロス)が、さっきまでの弱気さを拭い去るかのように勢いよくお酒を飲み干すわけです。その弱気な心ごと、恋にかき乱される悶々とした心ごと飲み干してしまおうと。
いつも奥手な男性が、ここぞというところで本気になる瞬間。いや、たまらん描写です。母性本能がいくつあっても足りません(伝わるだろうか)。
行け!カルロス!電話をかけたことを言えない弱気な男は、もうそこにはいない!今度は向こうをドギマギさせてやるんだー!!!
……とかなんとかっていう想像をかきたたせます。この理性を失わせる歌詞を書いているのは、有川正沙子さんという作詞家の方。ほかに1986オメガトライブのアルバム曲やB面なども手がけている方です。
この曲の勝因…テーマ設定がとにかく天才だった。
TUBEでもサザンでもない、そして杉山清貴のオメガトライブでもない。まだ開拓されていなかった夏を開拓してくれた1986オメガトライブ。
それは、ボーカルのカルロストシキにしか見せることができない「ピュアで奥手な男の子が少しだけ勇気を出す、夏。」というテーマ設定が、1000%ドンピシャだったからではないでしょうか。
この曲が出る前に「杉山清貴でないオメガトライブなんか、オメガトライブじゃない!」と離脱していった人も、拒否した人も、きっといたでしょう。実質、杉山清貴の後任としての役を務めることは、相当なプレッシャーがあったと思います。
そんな、まさに逆境というほかない状況で、この曲は35万枚の大ヒットを記録し今でも愛される名曲となったのでした。