船山基紀トークショー!伝説の名曲のエピソードが明らかに【イベントレポート】

どうも!平成生まれの昭和ポップス好き、さにーです。

2019年6月1日、編曲家の船山基紀さんのトークショーに足を運んで来ました!

船山基紀さんトークショー!伝説の名曲のあのエピソードが明らかに…!【イベントレポート】
音楽エンタメメディアRe:minerが主催するイントロクイズ大会

こちらのイベントです。メインイベントはイントロクイズ大会でして、その合間に船山基紀さんのトークショーが行われました。(ちなみに1部は船山基紀さん編曲作品縛りのイントロクイズでした)

音楽評論家のスージー鈴木さん、イントロマエストロの藤田太郎さんとトークセッションの中でいままで船山さんが編曲してきた作品や関わってきた人々とのエピソードを探る、という内容でした。

本記事では、そのトーク内容を簡単にまとめたいと思います。

まずは船山基紀さんの編曲家デビュー秘話

船……船山基紀さん
ス……スージー鈴木さん
藤……藤田太郎さん

左からスージー鈴木さん、船山基紀さん、藤田太郎さん

ス:船山さんはもともとヤマハということですが、そこには就職と言う形で入ったんですか。

船:もともとはハイソサエティ・オーケストラというビックバンドのジャズをやってまして、そこの先輩に「お前はプレイをするより譜面を書く方が得意だから、譜面を書きにヤマハに来い」って言われて。最初そこでアルバイトをやっているうちに、社員になりました。

ス:そこに萩田光雄さんもいらっしゃったんですね。

船:そうですね。ちょうどそのころヤマハポピュラーソングコンテスト(通称ポプコン)っていうのがあって、そのアレンジを手伝わされていたんですけど、そこで萩田光雄さんの譜面を見よう見まねで盗み見て、アレンジを勉強しました。

大村雅朗と船山基紀

ス:のちに、そこに大村雅朗さんが入ってくるんですよね。

船:大村くんは、ヤマハを出て僕がプロのアレンジャーとしてやってた頃に、ある日突然福岡から猫1匹連れて出てきたんですよ。それで「大村くん事務所は?」って聞いたら、「いや何も決めてない」って。「お金は?」って聞いたら「貯金だけ」と。どうするんだ〜ってみんな友達と奔走して事務所を見つけてあげて、それでようやく独り立ちできるようになって。

藤:そのエピソードを聴いてると結構やばい人にも聞こえますが(笑)

船:やっぱり目の前にすると大村くんのあの感じだから、全然やばくなくて、「助けてあげなきゃ」って言う気持ちばっかりでしたね。

ス:70年代のヤマハに萩田光雄先生、船山基紀先生、大村雅朗先生が全員集まるというのも、奇跡ですよね。

中島みゆきと船山基紀

ス:中島みゆきさんのアザミ嬢のララバイも、ヤマハの関連ですかね?

船:中島みゆきもたまたま僕に当たっただけで、みゆきが希望したわけでも誰か制作陣が船山にやらせなきゃとなったわけでもなくて、振り分けられた相手がたまたまみゆきで。それがなんとなくうまく感性が合ったのかなと思っていました。…でもこの曲、僕はロッカバラードみたいなアレンジをしたんだけど、みゆきは本当早いワルツのつもりで作ったんだって。最近知りました(笑)

ス:でも世の中的に船山基記のネームバリューが上がったのは、やっぱり「時代」だったんですかね?

船:「時代」で世界歌謡祭とかそういう賞をとったりして、やっぱりこの業界で賞を獲ったりすると箔がつくっていうか。じゃぁそいつを起用しようか、って言う話になってね。だからやっぱりみゆきさんがきっかけではありますね。

名曲のイントロ制作秘話

「勝手にしやがれ」(沢田研二)


勝手にしやがれ[沢田研二][EP盤]

船:沢田研二の「勝手にしやがれ」のイントロのピアノを弾いているのは羽田健太郎といって、バリバリのクラシックもジャズも弾ける人。あの人のタッチがないとこの感じは出ないんですよ。すごいですよ、生で聴くと。
でね、これが僕の代表作みたいによく言われるでしょう。でもこれは僕が作ったんじゃなくて、大野克夫さんがお作りになった作曲にくっついてるイントロだったんですよ。

ス:イントロというのは作曲家が作ることもあり、編曲家が作ることもあるんですよね。この場合は作曲の大野克夫さんからのデモテープの中に、すでにこのイントロが入っていたと言う事なんですね。

船:そう。イントロは最初から出来てたから、この曲では僕はオーケストレーションをやったんです。

ス:それでは船山さんが、作曲家の指定なく、自由に作ったイントロを聴いてみましょうか。

「迷い道」(渡辺真知子)


迷い道 [EPレコード 7inch]

船:渡辺真知子の「迷い道」のイントロを弾いている羽田健太郎さんはめちゃくちゃテクニックがすごくて、どんなものでも弾ける人なわけ。このイントロだって、ただ「タンタン」と音を弾くだけだったら、普通のピアニストだったらサマになるだろうけど、ハネケンさんはもっとテクニックを使わないと「ハネケンさんらしさ」が出ないんですよ。それを頭に描くと、こういうイントロになるんです。「タラララン・タラララン」っていう。僕の作品って「タラララン」みたいなのが多いんだけど、それはもうハネケンさんが弾いてると思ってください。

「迷い道」でもう一つ言うとね、今はクリックというのでテンポをキープしてるんだけど、この時代は僕が指揮をしてるわけ。だから真知子が望んでるテンポよりもだんだん早くなっていっちゃって、冷や汗タラタラのレコーディングだったよ。ほんとはハネケンさんはもっと早く弾きたかったみたいでさ。
だから本当言うと、イントロでほんのちょっとだけテンポが上がってるんだよ。

「ブルー」(渡辺真知子)


ブルー[渡辺真知子][EP盤]

ス:「ブルー」のイントロもいいですよね。

船:「ブルー」のイントロでは、チェンバロにフィードバックをかけているんですよ。かぶせるようにエフェクトをかけるとこういう音になります。

ス:もちろんそのチェンバロも羽田健太郎さん。

船:そうです。真知子はたしか、全部ハネケンだと思うな。ハネケンじゃなきゃレコードできなかったってくらい、当時のレコーディングのメンバーはほとんど固定でしたね。ギターは矢島賢さん、ドラムが田中清司さん、ベースが武部秀明さんとか、ほとんど固定です。

ス:ハネケンさんはレコーディングの現場でもメチャクチャ喋りますよね。

船:そうですね。ピアノの下でも寝られるし。レコーディングの前に寝てるんだよ(笑)

「仮面舞踏会」(少年隊)


仮面舞踏会[少年隊][EP盤]

船:あと、メンバーの話でいうと、僕はキーボードのプレイヤーにすごくアレンジが左右されるんです。最初の頃のハネケンさんのようにテクニックがある人とか、その次が矢嶋マキさんという人でちょっとロックテイストが入ってきたり。SHOGUNの大谷和夫さんになると手堅いアレンジになったりね。

藤:少年隊の「仮面舞踏会」も大谷さんですよね。

ス:ずっとわからなかったんですが、仮面舞踏会のイントロというか…曲本編の前に、なんかビルが崩れるような音がありますよね。

船:実は、これは打ち込みじゃなくて手弾きなんですね。これを手で弾くっていうのは大変なことなんですが、僕はそこまで考えていなかった。だから大谷さんがも何回もやってくれてね。

ス:音楽性と言うよりも数学的な距離感でビルが倒れていくような感覚ですよね。こちらはどうやってアレンジされたんですか。

とっても楽しそうに話すお三方。

船:少年隊って、とても大変だったんだよ。ジャニーさんが、ニューヨークで稽古している、これからデビューする男の子が3人いて、これはどうしても100万枚売らなければいけないんだよと。そのプレッシャーがすごくて。どういうイントロつけるかで売上が変わるんだから、頼むよって(笑)それに対するこのめちゃくちゃなイントロが、僕の回答なわけ。

ス:なるほど。このイントロ、5拍子ですよね。

船:そう、5拍子。だからもう「なんでこんなイントロ作ったんだ」って言われないように、誰にも突っ込まれないようなものを作ったんです。ジャニーさんの頭をすーっと通り過ぎてくれと思って(笑)その一心で作ったイントロなんです。

「淋しい熱帯魚」(Wink)


淋しい熱帯魚 [Analog]

ス:リズムの拍数の話が出たので、もう一つ語り継がれるWink「淋しい熱帯魚」のイントロの話を聴いてみましょうか。こちらのイントロの最初、なぜ2拍少ないんでしょうか?

船:2拍少ないというのは実は間違いで、これ「1,2」から始まるのではなく「3,4」から始まってるんです。なぜこういう「3,4」から始まるものを作ったかっていうと、デモテープをもらったカセットテープの頭に白い部分(音が記録できない部分)がついてて、その白い部分に本当は「1,2拍目」が入っていたんです。すぐ間違いだっていうのはわかったんだけど、なんだ面白いじゃん、って思ってわざと「3,4」から始まるものにしました。

ス:なるほど!拍数のことまではわかりませんでしたが、たしかに当時聞きながら、なんとなく引っかかりというものは感じていました。

船:ちょっと不安定な感じっていうのは、ヒット曲のヒントになりますよね。みんなの耳を「ん?」と思わせるに、なにか変なものを入れています。「仮面舞踏会」だったり、この曲だったり。そういう不安定さが割と僕は好きで、使っています。そういう不安定さがないのが、萩田光雄さん。

ス:筒美京平さんが、萩田光雄さんと船山さんを表現した言葉があるんですよね。

船:「萩田光雄くんは、僕の音楽をとっても正しい音楽にしてくれる。船山くんは、僕が恥ずかしくてできないものを平気でやってくれる」って。言われた時は「えー!」って思ったよ(笑)

「Romanticが止まらない」(C-C-B)


Romanticが止まらない[EP]

ス:「Romanticが止まらない」のイントロを作るときに、筒美京平さんとのコントのようなエピソードがあったんですよね。

船:コレを聴くたびに思い出すよ、ホントに!レコーディングの時、京平先生もいて。大谷和夫さんに僕のアレンジの譜面を渡して弾いてもらってね。そしたら京平先生、ちょっと音楽を止めてもらった瞬間に「やっぱりこういうのは大村(雅朗)くんよね」って!(笑)要するに、もっと洋楽っぽくってかっこいいアレンジを期待してたんだろうね。
もう、すぐ京平先生のところに行って「これ作り変えましょうか・・・?」っておそるおそる聞いて。
そうしたらその時、C-C-Bのメンバーの笠くんが「僕たちこっちのほうが好きです」って。プロデューサーも「じゃあ、とりあえずこれでやっときましょう」って。そこで僕が作り変えるとまたスケジュールも遅れていくから、なんとかそこでまとめようっていうね。それから笠くんたちがそういう歌謡曲っぽいのにあんまり抵抗がなかったっていうのもある。それであのイントロになったんです。
笠くんにあとで会った時、「あの時はありがとうね」って言ったら「えっ、そんなことありましたっけ?」って。彼は覚えてなかったんです!

ス:筒美京平さんとはじめて出会った時にも、なにかやりとりがあったんですよね。

船:初めて筒美京平先生と仕事をしたのが太田裕美の「都忘れ」。その時はただでさえちょっとビビっているのに、真っ先に京平先生にね、「船山くん、あなたこういう歌謡曲みたいなアレンジって嫌いだろうけどね、僕と仕事するときは僕の世界でやってもらうよ」っていきなり言われたの。

ス:ピシッとスーツ着て。シビレますね。

藤:それは上からガーンきますね。。

船:それがなかったら今の僕は無いわけだから、筒美京平先生に本当に感謝ですね。それに、筒美京平作品をアレンジしたのは、僕が一番多いの。

ス:それは誇らしいですね。

「抱きしめてTONIGHT」(田原俊彦)


抱きしめてtonight EP 7インチシングル盤

ス:やっぱり筒美&船山コンビと言えば、田原俊彦のこの曲でしょう。

船:(曲を聴いて)…いいよね!

(一同笑)

ス:このイントロはどんな感じで作ったんでしょうか。

船:最初の2小節は僕がつくって、それ以降は筒美京平先生の作ったメロディーにくっついてきたの。要するに、僕はよりキャッチーにするって言うことを求められていて。「タッタラーン」ではなく「・タッタラーン」にしたのも、こういうリズムの不安定さで耳を傾けてもらおうかなっていうね。

藤:最後のアウトロもイントロと同じ感じで終わりますよね。

(大サビ・アウトロ流れ、思わず一同拍手!)

〜〜〜

ス:では最後に、船山さんにとって、筒美京平さんとはどういう方ですか?

船:なんていうんだろう。漬物石?

(一同笑)

船:船山がつけあがると上からギューっとお灸をすえてくれる、大先生です。

 お三方ともとってもいい表情。

あとがき

幾度となく聴いている名曲のイントロにも、知らなかったエピソードがたくさんあって、発見だらけの非常に楽しい時間となりました。観客席からも、新事実が発覚するたびに「お〜!!」なんて声が漏れていました。

私自身も、船山基紀さんのつくるキャッチーなイントロの裏側にほんの少し触れることが出来て嬉しかったです!ちょっとでも雰囲気が伝わっていれば幸いです。

また、今回の出演者・スージー鈴木さんの著書でこんな本があります。「イントロってヒット曲において超重要じゃん…!」と思った方はぜひ読むべし。


ちなみに今回イベントを主催したのは「Re:minder」という80年代音楽エンタメメディア。毎日80年代音楽やエンタメに関するコラムをアップしているWebメディアで、定期的にこのような大先生を招いたイベントも行っています。次はどんなイベントが開催されるのか、楽しみですね!

Re:minder – リマインダー | 80年代音楽エンタメメディア、エキサイティング80’s!

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